三遠南信徹底解剖
見どころ・聞きどころ・体感どころを一挙大公開!
300年400年と受け継がれている民俗芸能があちこちに残る三遠南信。これを観なくちゃ始まらない!数多い中からピックアップしてご紹介。 【眠い・煙い・寒い】 さんえんなんしんの祭りや神事には、夜を徹して行われる行事も数多い。眠気と闘い、焚き火の煙さと闘い、冬時期には手足も凍る寒さとの闘い…。それでも惹かれて何度も足を運んでしまう…その魅力とは?? 数多い催しの中からピックアップしてご紹介しましょう。 |
●川合花の舞(静岡県佐久間町) | |
久間町には今現在まで、川合・今田・峰の三箇所「花の舞」が伝承されています。もともとは、かんばつや冷害、疫病などに苦しんだ人々が、「これは悪霊のしわざだ」と考えて、悪霊を鎮め人々が生まれ清める神事として始まったそう。それが後に五穀豊穣や無病息災の願いを込めて十数種類もの舞を奉納するようになったものです。 今回ご紹介する川合花の舞は、川合地区の八坂神社で行われます。 祭事の当日には舞処の四方に榊と御幣、しめ縄カイダレなどが設置され、舞処の真ん中にはしめ縄とカイダレをつけた湯釜を置き、その真上に白蓋(びゃっかい)が吊るされます。 以前は天竜川河畔から水を汲み、身体を清めてからお宮にあがったといわれていますが、現在は手桶を持って川合院の湧き水で浜水を汲み、湯がまに加えて初めて点火。湯をあびても怪我や過ちがないように湯伏せの祈祷「釜祓」が行われています。 午後3時頃から第一の演目「地固め」がスタートし、翌日4時の湯立神事まで、約20演目の舞が延々と奉納。三つ舞、四つ舞、面をつけての問答など、長いものは1時間以上も舞い続ける演目もあるほどです。地元の子どもたちも参加していますが、わらじを履き枚踊ると、足の指が擦り切れるのでしょう。痛さで少し顔が険しくなることも。 それでも決して立ち止まることはありません。淡々と湯釜の周りを舞い続けていく姿は胸を打たれます。 神事のクライマックスは、鬼の中でも最も権威があるとされる「榊鬼」の登場。その時は深夜2時になっていました。もくもくと立ち上る焚き火のけむりと湯釜の湯気の中、真っ赤なお面に鉞をふりかざし勇ましく舞う姿は英雄そのもの。 長い神事に、初めは途中休憩する予定が、すっかり夜通しのめりこんでしまったのは、現在まで絶えることなく伝承されてきた長い歴史、それを大人も子供も真剣に守りつづけている姿に心打たれたからなのかもしれません。 |
※1舞処の華やかな装飾も見ごたえがあります ※2子供たちも大役を担い一心に舞いつづけます ※3迫力のある舞いに観衆も息をのみます ※4思わず笑いがおこるユニークな演目も… |
●坂部冬祭り:長野県天龍村坂部 | |
神聖なお祭りに笑いのエッセンスも 長野県の最南端に位置する天龍村。その村のまた最南端にある坂部集落に伝わる冬まつりは、一年のけがれを払い新しい年を迎えるために、毎年正月四日から翌朝昼頃まで夜を徹して行われる神聖なお祭りです。 坂部地区は現在わずか27戸。そんな小さな集落の人たちが1428年以来、一度として欠かしたことなく今現在まで受け継いでいる祭りと聞いて驚き。祭りの起こりも「夢占いで仰せがあった」という謂れがあるほど神がかり的な要素をいっぱい持っているのです。 最初の見所は四日の早朝。祭りに携わる氏子や宮人たちは素っ裸になって、天竜川で身を清め、それから白装束を身につけます。雪も降り積もることがある正月時季、川で清める男たちの肌は冷たさで真っ赤。それでも彼らの表情に辛さは感じられず、みるみる気合いがこめられていくのが感じられます。 その後、お練りが連なり幻想的な笛の音とともに神社へ向かい、そこから翌日まで延々と舞や湯立て、問答などの儀式が続きます。少年四人が舞う「花の舞」※5や、大きな獅子の面をつけて勇壮に舞う「獅子舞」、鬼の中でも花形の「天公鬼面」などは神聖な雰囲気ですが、だんだん佳境に近づくと、禰宜と鬼との問答※6があったり、男が女房を紹介されてちょっぴり下ネタを加えながら盛り上がるといった演出※7があったりと、なかなか面白い場面も多いのです。 特にスリル満点で笑わせてもらったのが、翌日の朝方もう終盤にさしかかるころに行われる「魚釣り」※8。これは木で作った魚を観客が取りにいき、魚を取れた人はその年幸せになるといわれていう場面。「なあんだ、簡単なことだ」と思うかもしれませんが、そう甘く幸せはつかめません。なんと舞処にいる男たちは、小麦粉を溶かした水を口に含み、魚を取りにきた観客たちに一斉に吹きかけ妨害するのです。それにもめげずに魚を取ってこそ勝者になるというわけです。 とはいえ、とにかく寒い。火の粉が舞い上がる大きな焚き火※9にはりつくように当たっていると、今度はだんだん眠くなってしまいます。必需品は完全な防寒具とカイロ。そして雪が降るような日には洋服が塗れてだんだん寒くなってしまうので、防水ジャンパーなどがお薦めです。それから凍った坂道を上り下りしても大丈夫な靴と懐中電灯もあると何かと便利でしょう。神社内の小さな小屋内が仮眠室として開放されるので、時おり休みながらお祭りを鑑賞してみてはいかがですか。 |
※5花の舞 ※6禰宜と鬼との問答 ※7盛り上がる演出 ※8魚釣り ※9大きな焚き火 |
●新野の盆踊り:長野県阿南町新野 | |
三日三晩の盆踊りは、参加してこそムードを実感! 「新野千石平」と歌われるほど美しい水田地帯として知られる新野地域には、毎年8月14日〜16日の三日間、夜通し踊り明かす「新野の盆踊り」があります。この祭りは1533年瑞光院の開山祝いとして伊豆下田の人々がきて踊っていた踊りを、お盆に取り入れたのが始まりといわれているそうです。 この日は町の市神様の前にやぐらが組まれ、浴衣姿の人々はその周囲を輪になって囲み、その輪は一晩中途切れることがありません。さすがに深夜2時3時ころには人も少なくなり小さな輪になりますが、多い時にはメインストリートの端から橋までいっぱいに広がるほど大きな輪になることもあります。 この盆踊りの独特なところは、楽器を全く使わず音頭取りと踊り子が声を出し、調子を揃えながら進んでいくこと。テープが流れるわけでもなく「しらけてしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、いえいえこの謡いがとてもムードがあって、いつしか耳に残り口ずさんでしまうほど心地よいメロディなのです。闇夜の山々に響く歌声はとても幻想的で魅力いっぱいです。 踊りは扇子を使うものと、手踊りのものなど現在7種類ありますが、「能登」という曲だけは盆踊りの最後17日の早朝「踊り神送りの式」を行うときだけしか踊ることができない決まりになっているので、通常は6曲を音頭取りが適宜変えながら進んでいきます。 三日三晩、朝まで踊っていてもクライマックスは最後の最後。三日目の朝が一番踊り子の数も増え、ノリのよい「能登」が始まると踊り子たちの気持ちは今まで以上に一致団結。そして「もっと踊りつづけたい」と切子燈篭の行列が端光院門前広場へ向かうのを、10人から20人が肩を組んで押しとどめようと踊り続けるのです。このときだけは鉦と太鼓が大きく鳴り響きます。 どうですか?興味深い盆踊りでしょう? 初めて参加する人でも、町の人たちはやさしく仲間にいれてくれるので、ぜひ浴衣を着て参加してみてはいかがでしょう。「初めてなので教えてください!」と輪に入れてもらい見様見真似で踊っていると、何回か繰り返すうちにマスターできること間違いなし。扇子は手持ちの物を持っていってもいいですが、ムードを満喫するにはやはり地元の扇子を購入したいもの。「踊らまいかよ踊らせまいか、年に一度の盆じゃもの」といった盆唄が書かれた扇子は、きっと大切な思い出になりますよ。 |
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